アジロンについてのあれこれ

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今年(2023年)のアジロンはとってもいいらしい。
この猛暑を味方にして、すくすくと育ち、早々と収穫の運びとなったとか。

以前はそれほど見かけなかったアジロンのワイン。アジロン=アジロンダック(adirondac)は幻のぶどう品種とも言われ、日本国内では山梨の勝沼でしか、ほとんど栽培されない希少種。正式名称?はadirondac(アジロンダック)。けっして新しい品種ではなく、生食用品種として戦前(明治時代のはじめ)から栽培されてきたものの、熟してくると実がぽろぽろ落ちてしまう(脱粒)するため生食用の流通には向かず減ってきた……と、されているのだけど……。
近年、見かけるアジロンワインも増えてきた感じがするし、実際、新しい苗木も植えられているという記事も……少しずつ、増えてるのかも? (暑さには強そうだしねえ)

特徴的な甘い香りはラブラスカ交配種(北米系ハイブリッド)の中でも際立って高く、色も濃い。この甘い香りについては、欧州のワインに慣れた人からは、邪道扱いされることもあるけれど、マスカット・ベーリーAの特徴香とされるフラネオールも、コンコードに代表されるアントラニル酸メチル(MA)も、ぶどうに代表される美味しい果物の香りで、けっして悪い香りではない(はず)。
日本ワインにおいて、この甘い匂いは否定できない気がするんだけどなぁ。

ともかく、アジロンのワインは、甘い匂いもするけど、私はおいしいと思う。このおいしさは、いったいどこから? アジロンの由来を探ると、そこに秘密があるのではないか……と、系図を出してみると言ったら、moripapaは「そんなこと、興味のあるのは、morinekoだけだ!」と、言う。そうなのかなぁ……。
同じ系列のぶどう品種には、何かしらの共通点とか、あると思うんだけど。っと、描こうと思ったら、すでに描いてました。

北米系品種

この図の右上あたり。ちなみにプティ・メリエの両親であるホイニッシュとかサヴァニャンについては、こちらも。
ホイニッシュ・サヴァニャン

上記の図には入っていないのだけどプティ・メリエはフランス中心に栽培されている白ブドウ品種。シャンパーニュの原料として認められている。
親にあたるホイニッシュ、サヴァニャンの系列のぶどうは、よく知られているものも多い。つまるところ、ワインにしておいしいブドウの系列ということでは?

さて、そのプティ・メリエとラブラスカ種の交配種としてあげられている「イザベラ」。日本では聞きなれない品種だけれど、全世界的にみると、相当数、栽培されている品種ではあるけれど、ラブラスカ交配種の宿命として、ヨーロッパでは認められていない品種でもある。ロシアやウクライナのほか、モルドバやアゼルバイジャンなどなどで栽培されているけれど、アメリカでもワイン用品種としては認められていないとか(もっとも、身元のハッキリしない翻訳サイトの情報なのでソースは不確か)
イザベラはペクチンを多く含むらしく、ペクチンは蒸留過程でメチルアルコールに変化するため、商品化するのには難しさがあるということかな。(日本に出回っている酒類は、国税庁がちゃんと調査しているので、基準値以上のメチルアルコールの入っているお酒はありません)

日本では、イザベラ自体は(たぶん)栽培されていない。園芸用はどうだかわからないけど、少なくとも国税庁や農林水産省のデータには載ってこない。
ただ、イザベラを祖先に持つ品種は、アジロンをはじめポートランドやスチューベン、ブラッククイーンなど、それなりにたくさんある。問題となりそうなペクチンは、交配の過程でどうなっちゃったのか、それはそれでわからないし、醸造の過程でペクチンをなんとかする方法があるのかもしれない。

っと、親品種のイザベラから、迷宮に入ってしまったアジロン。1852年にアメリカの個人ブリーダー(Witherbee, J.G.)によってつくられた品種。イザベラの芽条変異種。
イザベラのどの形質が変異しているのか、未調査。

名前の由来は、たぶんニューヨーク州の北部にある「アジロンダック山地」(違うかも?)。ちなみに山地の名前はadirondackでVIVC登録のぶどう品種名はAdirondac。日本でワインの瓶に書いてあるのは、どちらもある。

日本で最初の赤ワインはこのアジロンダックでつくられたとかいう逸話も。明治初期、大日本山梨葡萄酒会社が創業(1877年)された当時の主要品種は甲州。デラウェア(白)とアジロンダック、コンコード(赤)。ちなみに、今現在の日本ワイン主力赤品種マスカット・ベーリーAは1927年生まれ。

とは言え、GI山梨の品種リストを見ると、アジロン入ってなくて、なんでだろう?という気も。